和田金の創業は明治11年。東京の料亭「和田平」などで料理の修行を積んだ初代店主の松田金兵衛が松阪に帰郷し、鍛治町(現:本町)に牛肉店を開業したのが始まりです。その5年後には、西町三丁目に鋤焼き(すきやき)の店を出店。それから間もなく、上質な松阪の牛肉を平切りにした「寿き焼」のスタイルを確立しました。
金兵衛は、昭和2年に東京支店を開設し、皇族方や政財界の名士に松阪牛を納入する経路を開拓しましたが、太平洋戦争が始まると、和田金は食肉配給の一機関となってしまいました。しかし、そんな時代でも和田金の配給切符は人気を集め、高値で売買されたとのエピソードも残っています。
戦争が終わると和田金は会社を組織し、再出発します。昭和39年には、肉質を向上させるために嬉野黒野町に自営牧場を設立しました。
昭和初期ごろから使用している和田金のロゴマークには、創業以来の誇りとさらなる研鑽への誓いを込めて「松阪肉元祖」と「BEST BEEF」の文字が刻まれています。
これまでに、皇室方やさまざまな分野でご活躍の著名な方々のご来店を賜ってまいりましたが、時折、文学の世界のお客様がご来店になることがあり、名文を通して来店のご感想を届けてくださいます。その中からいくつかご紹介いたしましょう。どれも趣があり、励みに感じております。
・・・近頃こんな上等の堅炭というものを見たことがない。(中略)
その立派な炭が赤熱して歓呼のような輝きをおびてくると、金網をかけ、そこへいよいよ逸品をのせる。さすがにみごとな名作である。・・・ちょっとあぶって色が変わるだけにとどめたところを金網からとって生醤油にひたして食べると、口いっぱいにミルク、バターの香り、豊満なかぎりの柔らかく、あたたかい香りと滋味がひろがる。何しろ箸で切れるほどの精妙さ、柔らかさ、豊熟、素直さなのである
言ってみれば、和牛の代表松阪牛の、そのまた大代表とでも言うべき牛肉なのである。(中略)しつこくない、柔らかい、しっとりしている、味が濃い、これが和田金牛肉の四大特長と言えそうだ。
鈴乃屋のうし(大人)の在りせし松阪に和田金のうし(牛)を恋て来にけり